ドラマログテキストマイニング

テレビ番組(ドラマ)の字幕情報を対象に、テキストマイニングの研究をしておりますので、解析結果の公開をメインに関連グッズを交えた構成で記事にしてます。また、解析結果の信憑性が確認できるよう、解析用ソースも部分引用し掲載してあります。

日経ドラマスペシャル「琥珀の夢」内野聖陽、檀れい 、生瀬勝久… ドラマの原作・キャスト・主題歌など…

『日経ドラマスペシャル「琥珀の夢」』のテキストマイニング結果(キーワード出現数ベスト20&ワードクラウド

  1. 萬治郎
  2. 暁屋
  3. ブドウ酒
  4. 大将
  5. ウイスキー
  6. 東京
  7. お前
  8. お父ちゃん
  9. サト
  10. 寿太郎
  11. 天道
  12. お母ちゃん
  13. 松亀
  14. 鳴江屋
  15. 萬吉
  16. 天道ポートワイン
  17. お金
  18. 大阪
  19. 日本
  20. 日本人

f:id:dramalog:20200101144030p:plain

『日経ドラマスペシャル「琥珀の夢」』のEPG情報(出典)&解析用ソース(見逃した方はネタバレ注意)

 

解析用ソースを読めば、番組内容の簡易チェックくらいはできるかもしれませんが…、やはり番組の面白さは映像や音声がなければ味わえません。ためしに、人気のVOD(ビデオオンデマンド)サービスで、見逃し番組を探してみてはいかがでしょうか?

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(本ページの情報は投稿日時時点のものです。最新の配信状況は Paravi サイトにてご確認ください。)

(詳細はFODプレミアム公式ホームページにてご確認ください。)

 

日経ドラマスペシャル「琥珀の夢」[字]

内野聖陽主演!伊集院静の原作小説をドラマ化!「やってみなはれ」精神で、世界に冠たる洋酒メーカーをたった一代で築き上げた男の人生を描く傑作ヒューマンドラマ。

詳細情報
番組内容1
明治、大正、昭和を生き抜き、“やってみなはれ”精神で世界に冠たる洋酒メーカーを一代で築き上げた伝説の男・鳴江萬治郎の物語。
明治12年。大阪の米穀店「鳴江屋」店主・鳴江義兵衛(中村梅雀)とちよ(原田美枝子)に4人目の子供が誕生。萬治郎と名付けられる。成績優秀な子に成長するが、義兵衛は息子を丁稚奉公に出すことにする。母は反対するが、父の言葉を受け入れる萬治郎(渡邉蒼)。
番組内容2
そんな中、萬治郎はキラキラした琥珀色の夢を見る。この夢が意味するものとは…。
奉公先の薬種問屋の店主・小南理助(西田敏行)は葡萄酒の開発をしていた。興味を持った萬治郎は開発を手伝い、やがて販売にこぎつけるが、東京で人気の葡萄酒のおいしさに愕然とした理助は、志半ばで洋酒部を廃止に…。しかし4年後。大人になった萬治郎(内野聖陽)は理助の恩に報いるため、日本一の葡萄酒を完成させるべく再び動き出す!
出演者
 鳴江萬治郎…内野聖陽
 サト…檀れい
 鳴江千恵蔵…生瀬勝久
 松亀正行…山本耕史
 鳴江寿太郎…大東駿介
 中井大五郎…田口浩正
 ミドリ…倉科カナ(特別出演)
 鳴江義兵衛…中村梅雀
      ・
 大川与兵衛…市川左團次
出演者2
 国生栄太郎…伊武雅刀
 鳴江ちよ…原田美枝子
 小南理助…西田敏行

 ナレーション…渡辺いっけい
原作脚本
【原作】
伊集院静琥珀の夢 小説 鳥井信治郎
集英社刊/日本経済新聞連載)

【脚本】
森下直
音楽・監督
【音楽】
服部隆之

※「隆」は旧字(「生」の上に「一」が入ります)

【監督】
松田秀知

 

 


ごめんやっしゃ ごめんやっしゃ。

こんにちは。

< この男の名は 鳴江萬治郎。

彼はやがて 我が国初の

国産ウイスキーを造ることになる>

なんや?
最新式の自転車やないかい。

あれ お前150円はするで。

誰や?
暁屋の旦さんだす。

何を商うてる?
ブドウ酒 缶詰

イカラなもんやったらなんでも。

< これは 明治 大正 昭和

3つの時代を生き抜き

世界に冠たる洋酒メーカーを

たった1代で築き上げた
伝説の男

鳴江萬治郎の物語である>

ごめんやっしゃ ごめんやっしゃ!

ごめんやっしゃ ごめんやっしゃ。

ひいひい ふう。

もうすぐやで。

ごめんやっしゃ。

(赤ん坊の泣き声)

生まれた 生まれた。
お父ちゃん。

ちよ でかした。
男の子だす。

男か。 でかした でかした。

ひと月も早う生まれてくるやて

せわしない子やなあ。

鳴江屋さん。

あてもこれまで なんべんも

赤ん坊 取り上げさせて
もろうてますけどな

こないに立派な
鼻をしたお子は初めてだすわ。

それに 握りこぶしの大きいこと。
ほんになあ。

この手は
ぎょうさん銭を握る手や。

大商人の手や。

千恵蔵 おひろ おみよ おいで。
(3人)へえ。

ちっちゃいな。
ほんまやな。

わてらの弟や。

お父ちゃん 名前は何?
男の子 女の子

ふた通りの
名前を決めてあんのんや。

男の子やさかい。

萬治郎。

この子は 鳴江萬治郎や。

萬治郎やて 萬治郎。

う~ん。
へえ そうか。

お母ちゃん この家
今 大根たいてはるわ。

そうか 萬治郎は
ほんまに鼻がききますな。

こっちの家は イワシの塩焼きや。
昨日と同じおかずや。

これ そんなん
言うたらあきまへん。

大根はようて イワシはあかんの?
なんで?

ありがとうございます。

行きまっせ。

なんで
ええことしたのに逃げんのや。

ええことやという
その根性が あかしまへんのや。

お礼が欲しいってお助けしたら
それは お前の満足のためや。

死に金や。

そういう心は
お天道さんが見てはります。

あのな 萬治郎。

お金には
生き金と死に金があってな

死に金は 使たら使うほど
お前の心にたまってしまう。

お前の心をどんより曇らして

お友達 お父ちゃん お母ちゃん
お兄ちゃん お姉ちゃんたち

大事な人を遠ざけてしまう。

商人としても人としても

それが いちばんの
不幸なことだすのやで。

< やがて萬治郎は
尋常小学校に入学。

成績優秀で飛び級し高等小学校へ。

更に 商業の専門知識に特化した

大阪商業学校へ進学し
1年が過ぎた>

ところで萬治郎。

商業学校のほうはどないや。

どないも こないも

授業は わての
知ってることばっかりだす。

おもしろいのんは
英語と 中国語くらいでおます。

ほんならお前 学校辞めて

でっち奉公に出てみいへんか?
(2人)えっ?

鳴江屋を大きして
千恵蔵に身代を譲り

萬治郎には
のれん分けをと思てた。

けど わてには
商いの才がなかった。

お店は 相変わらずの
ギリギリの資金繰りで

これ以上 お前を学校にやる
お金が もう のうなってしもた。

うちは反対だす。
お父ちゃん

萬治郎は 頭がええぶん一言多い。

向こうさんで にらまれます。
でっち奉公やなんて無理や。

鳴江屋に萬治郎まで
食わせる身代はあらへん。

何を甲斐性のないことを
子どもの前でペラペラと。

(千恵蔵)でっち奉公はな

人さんとこで おまんま
食べさせてもろて

商いのことから礼儀作法まで

げんこつで
叩き込まれる修業や。

いったん奉公に出たら盆と
正月しか家に帰ってこられへん。

つらいで。
うん。

学校 続け。

学費は
わてが なんとかするさかい。

お兄ちゃん。

今朝がたな 夢を見たんや。

お天道さんの光が

そこらにあるもん
みんなに乗り移って

キラキラ 光りだしたんや。

わての手も体も透き通って
光の玉が湧いてきて。

胸の奥が 熱うなって

キラキラと ほんまにきれいで。

あれは 何色というのんやろ。

(千恵蔵)金色色とちゃうんか?
違う。

金色のもっと透き通った色や。

(千恵蔵)
透き通った金色色 琥珀色かいな。

琥珀

これや。

琥珀

お母ちゃん もう道修町やで。

どこまで ついてきますのや。

小南理助商店さんまでや。
やめてんか。

でっち奉公に親がついてくるやて
笑われるわ。

アンタ 悲しゅうないのんか?

もう 家に帰られへんのやで。

お父ちゃんは ああ言うてるけど

アンタ一人の食いぶちくらい
お母ちゃんが なんとでも。

お気持ちは ありがたいけど

かわいい子には
旅をさせろだっせ。

アホらし。
ほな。

ちょっとお待ち これ これ。

おおきに。
ほな いってまいります。

ごめんやす。

弥七! 弥七!

いっぺんくらい
振り返りなはれ。

萬治郎やさかい
今日から おまはんは萬どんや。

萬どん?
うん。

わては常蔵。
常どんって呼んでくれ。

へえ。

ちっちゃい声やな。 へえ! や。

へそに力入れて大きい声で。
へえ。

もっと出る。
へえ!

弥七つぁん
ちょっとすんまへん。
なんや?

萬どん。
へえ。

手代の弥七つぁんや。
挨拶しなはれ。

へえ。 今日からでっちに入った
萬治郎でおます。

どうぞ よろしゅう
お頼み申します。

よろしゅうな。

ごはん お願いします。
あっ わても。

みそ汁。

おおきに おおきに。

いただきます。

萬どん 今日は初日やさかい

お客さん扱いさしてもろたけどな。
えっ?

このごはん食べたら
お前も小南理助商店の一員や。

あしたから きばって働いてや。
へえ!

夜は そない大声
出したらあかん。

ご近所に迷惑や。

すんまへん おかわり。

こら。

おかわりする でっちがあるかい。

ごちそうさんだした。

番頭さん お先に。
うん。

ごちそうさんだした…。

くそ 腹へったな。

萬どん こっち。

風通しのええとこに
置いといたからまだ大丈夫や。

みんなが いてへんうちにお食べ。

お母ちゃんの?
そうや。

わては 鳴江萬治郎や。 アンタは?

マキ お台所の下働きや。

おマキはんも食べる?
おマキはんやなんて。

マキどんでええよ。

それは 萬どんの
お母ちゃんのおにぎりや。

萬どんがお食べ。

(マキのお腹が鳴る音)

(マキ)おおきに。

なんで こない
掃除ばっかりさしはんねやろ。

萬どんあかんて。
誰かに聞かれたら どつかれる。

今日 旦那さん
見かけへんかったけど どこに?

彦根のほうに大番頭さん連れて
商いに行ってはる。

なんや 元気やん。

お腹ができたら元気出たわ。

旦那さんて どないな人なんや。

ものすごい怖いお人や。

そのうえに働き者でな
夜なべで薬刻んだり

日本人向けのブドウ酒の工夫したり。

日本人向けのブドウ酒?

旦さんが
お帰りになられましたで!

旦さん お帰りやす。
(一同)お帰りやす。

すんまへん。
はいはい はい。 お~。

旦さん お帰りやす。
ああ。

番頭さん 留守の間
変わりなかったか。

ございまへん。 旦さん
道中ご無事で何よりです。

昨日から
でっちに入った萬治郎でおます。

旦さん どうぞよろしゅう
お頼み申します。
はいはい。

(理助)誰かいてるか?

へえ!

あっ 旦さん。 ご用でおますか。

すんまへん。

今日は 風が強うて水をまいてて。

ドアホ!

なんのための掃除か
わかってやってるか?

教えておくなはれ!

うちは 生薬を扱うてる。

人さんの口に入るもんや。

万が一
ほこりや ゴミが入ったら

小南屋ののれんに傷がつく。
へえ。

そのうえ 生薬は

温度 湿度が
わずかに変わるだけで

効能が変わる。
温度 湿度。

そやから毎度 拭き掃除をして

温度 湿度を一定に保ってる。

そこに 砂を持ち込んで…。

ドアホ!

旦さん なんかこざいましたか?

なんもわからん
この子に用を言いつけた

お前らも そろて
ドアホじゃ! ドアホ!

すんまへん。
すんまへん。

なんちゅうことを
してくれたんじゃ!
常どん!

(常どん)へえ!
すんまへん。

わてらまで怒られたやないか!
すんまへん。

アホが!
すんまへん。

すんまへん すんまへん。
旦さん すんまへん すんまへん。

晩ごはん 食べてへんかったね。

これ お食べ。

お腹 すいてへん。

心配せんかてええよ
これはうちの分 残しといたから。

こないだのお礼。 一緒に食べよ。

お腹 すいてへん。

萬どん 萬どん!

わてが旦さんの
夜なべのお手伝いをだすか?

奉公して1か月で
旦さんからご指名て。

すごいな 萬どん。

ひょっとしたら
日本人向けのブドウ酒の工夫だすか。

じゃ香で おますか。

鼻が利くな。

次は ブドウ酒の調合や。

そこの樽のブドウ酒の原液を
このビーカーに移してくれ。

へえ!

旦さん これ腐ってます。

腐ってんのやない
発酵してますねや。

発酵?
米が発酵して 酒になる。

大豆が発酵して 味噌になる。

ブドウが発酵して ブドウ酒になる。

へえ…。

匂いが変わりました。
空気が混ざるとな

香りが変わるんや。

まるで生きもんだすな。

ということは ブドウ酒も

温度と湿度が
大事ということでおますか。

ほう…。

どうぞ。
うん。

かまへん 言うてみ。

お酢の 腐ったような。
そやな。

白湯の温度を

もうちょっと上げてみよか。
へえ。

発酵は温度と湿度。

と いきなり言い当てよった。
へっ?

たいしたもんだすな 萬治郎はん。

あぁ これはこれは
鳴江屋のご隠居さん

おかえりやす。
まいど どうも。

ちょっとご隠居はん 待ってくれや
ご隠居さん。

萬どん言うてるけど みんな
萬吉はん萬吉はん 言うてはるで。

大出世ですわ。
ありがたいことでおます。

この度は
小南屋の旦さんの肝いりで

日本人向けの
ブドウ酒を売り出しましてな。

あぁ 紅印?
私も飲んだことあるわ。

そら おおきに!
で どないでした?

えぇ それがね…
おいしかったわ~。

まだ 酸っぱおます。

飲み慣れんもんが飲んだら
腐ってると言われても

しようがあらしまへん。

旦さん 日本人が飲み慣れてるのは
日本酒でおます。

日本酒の甘みを
紅印に工夫したら

どないだっしゃろ。

日本酒の甘み…。

日本酒もブドウ酒も 発酵やさかい
きっと…。

よし やってみよう。
へえ。

甘み 甘み…。

萬吉。

今が工夫と辛抱の時や。

日本人向けブドウ酒は

まだ誰も登ってへん山やさかいな。
山だすか。

うん 商いのことや。

山を見つけたら
どないな辛抱重ねても

誰より先に登るんやで。

人がやれんことを
最初にやるのが商いの大事や。

へえ 最初に
登った者がいちばん稼げる。

それが商い。
稼ぐだけやあらへん。

商いは 喜びが肝心や。

喜び… でおますか。

毎晩 夜なべ続きで
お前 しんどいか?

いいや
途方ものう おもしろおます。

ワクワクします。

それが 商いの喜びや。

商いはな
その喜びを売りますのや。

わてらが ええもん作ったら
お客さんが喜びはる。

お客さんが喜んだら
その周りの人が喜びはる。

商いは 三方が喜ぶ

三方よしが肝心や。
へえ。

お気張りやす 萬吉どん。

<萬治郎は 紅印ブドウ酒の
工夫を重ねた。

甘みを増した紅印は
しだいに売れ始め ついに…>

すごい人出だすな 何の祭りやろ。

(理助)ハハハ 萬吉 これが東京や。

ごめんやす。

旦さん
東京の商いは すごおますな。

お店の者が 皆 洋装でおます。

番頭さんから でっちどんまで
皆 電話をつこておりました。

うちも 電話を増やすか。
へえ…。

どうも お待たせしました。
あぁ これはこれは。

あぁ そのままで
長旅 お疲れでしたでしょう。

ハハハ おおきに 国生社長。

早速ですけど
ご連絡申し上げましたとおり

本日は 改良を重ねました 新しい
紅印ブドウ酒をお持ちいたしました。

どうぞ お試しを。

あぁ 楽しみにしてました。

どないだすやろか。

たしかに飲みやすい。

しかし 深みと余韻がどうも。

そうだ これを。

今 浅草で人気の

エレキブランデーを考案した
杜谷新兵衛さん工夫の

日本人向けのブドウ酒です。
おぉ…。

どうぞ。
おぉ…。

旦さん。

お待たせしました ごゆっくり。

はい おおきに。

食べぇ。
へえ。

いただきます。

まずぅ!

旦さん 大阪と東京では舌が
もともと違うのとちゃいまっか。

こりゃ あきまへんわ。
静かにしぃ。

すんまへん。

汽車の時間まで
まだ だいぶあるなぁ。

あぁ どないしよ。

食べ。
へえ…。

うまいか?
いや まずおます。

静かにしぃ。
すんまへん。

今日をかぎり 洋酒部は

廃止や。
えっ?

萬吉どん
東京で何があったんや。

紅印…。

萬吉どん 旦さんが…。

<萬治郎は 小南理助商店を辞し
鳴江屋に戻った>

ほな 萬治郎 行ってくるで。
へえ お兄ちゃん。

気ぃつけて おはようお帰りやす。

萬治郎 兄弟で
他人行儀はやめてくれ。

わては タダめし食いの
居候だすさかい。

さようか。
へえ。

頼んだで。
へえ いってらっしゃい。

萬治郎。
へえ。

お父ちゃんがお呼びだす。
あ へえ。

ほんで お前は何したいんや。

うちは先祖代々 両替商やった。

けど ご維新で

西国の藩に貸したお金

踏み倒されてしもた。

しょうことなしに廃業して

つてを頼って

米穀商に
商い替えしてみたものの

うまいこと いかんかってな。

一家心中でもしようかいな
思てたとき

お前が生まれた。

 

立派な鼻と 大きな握り拳を

ギュッと握ってた。

鳴江屋が傾いたんは
ご維新のせいだけやあらへん。

人さんのめし 食べへんまま

親から身代受け継いで

主人に収まった わての甘さや。

そやさかい お前たち兄弟を
学校へ行かした。

奉公にも出した。

お父ちゃん…。
千恵蔵も お前も

これからの商人や。

萬治郎 言うてみ。

お前 何したい?

わては わては…。

ブドウ酒を
もういっぺん やりとおます。

東京の梟印ブドウ酒に勝てる

日本一のブドウ酒を工夫して

小南屋の旦さんの恩に報い

日本中の人たちに
喜びを売りとおます。

ほな 何を迷うてますのや。

やってみなはれ。

へえ!

<父 鳴江義兵衛が他界したのは
この数日後だった>

<四十九日の法要の翌日

兄 千恵蔵は
萬治郎に100円の金を渡した。

現在の貨幣価値で
およそ100万円である>

こないな大金 もらわれしまへん。

鳴江屋の身代
削ったもんやあらへん。

これはお父ちゃんが お前のために
コツコツ貯めてはったお金や。

これを当座の資金にして
好きなこと始めたらよろし。

お兄ちゃん いただきます。

おおきに!
あきまへん。

お母ちゃん
これは お父ちゃんの遺言だす。

アカン! 実入りのない者の銭には
羽が生えると言いまっしゃろ。

萬治郎は まだ半人前や。

半人前が 遊びと見栄を覚えたら
おしまいだす。

ほな しばらく
神戸に行かせてもらいます。

(2人)神戸?

神戸には
西洋はんの居留地がおます。

わては ブドウ酒を造るために
まず西洋を知りたい。

頭の先からつま先まで
どっぷり西洋につかって

わてのブドウ酒の取っかかりを
見つけたいんだす。

ええ考えや 行っといで。
へえ!

萬治郎 萬治郎!

千恵蔵!
へ へえ。

あれ見たか 大金を持ったとたん
足に羽が生えよった。

大事な虎の子で
神戸に物見遊山やて。
へえ。

居留地より いっそ密航したろか。

すんまへん その荷車 すんまへん。

すんまへん すんまへん。
へえ 何でっか。

ちょちょちょ 待って待って。
な 何や何や。

このええ匂いは 何だす?

あんた すごい鼻利きやな。

こら 焼きたてのパンや。

これ パンだすか?

あっ ベーカリー書いてある。

せっかちなやっちゃな。

これな あの船の一等船室の
レストランに納入しますんや。

船に西洋はんの食堂が…。
おう。

あの船は どこ行きでおます?
北海道や。

あぁ ほな 急いでますんで。
あっ おおきに。

すんまへん!
あの船に乗らしとくなはれ。

ここは一等の乗り場やさかいに

三等のチケットは
向こうで買うてくれるか。

わては一等に乗りたいんや。

日本人は三等で十分や。

一等の料金 57円やで。

それに 洋装やないと
乗せられへんしな。

一等は
レディーとジェントルマンばっかりよってに。

お金やったら ある。

一等に乗らしとくなはれ。

お任せください 旦那様。

えらい変わり様やな。

(汽笛)

みんな 驚いてますよ。
へえ。 ここ1週間

皆さんのことを
よう観察しとりましたんで

覚えましたわ。

えっ? ブラナーはん
日本語できはりますのか。

私の妻は日本人です。
私は 日本びいきでね。

なんや そうだすかいな。

(ドイツ語)

日本政府の
どこの所属かと聞いています。

ハハハッ わては商売人だす。

近いうちに
日本人向けのブドウ酒を造って

売り出すつもりでおますのや。

(ドイツ語)

普通の日本人も
ワインを飲むのかと聞いています。

へえ。 古くは 織田信長公の時代に
ポルトガルから渡ってきてますわ。

ポルトガル
へえ。

おぉ~ ポートワイン。 あれですね。

(ドイツ語)

あぁ おおきに。

おぉ~ これが…。

ええ甘みや。

余韻も なかなか長い。

(ドイツ語)

平和な戦争が始まりました
ドイツ大使からあなたに。

ドイツ誇りのビールです。

おおきに。 ビールは近頃
日本でも造っとりますけど

いただきます。

乾杯!

苦い…。

けど うまないわけやあらへん。

香ばしおます。

(歓声)

ブラボー!

(ドイツ語)

あぁ おおきに。
おおきに ありがとうございます。

ブラナーはん 西洋には
見た目も味も違う酒が

なんで こないにおますのやろ?

日本人の勤勉さには
心から敬意を表します。

しかし 日本人は

生きることを楽しんでるようには
見えません。

生きることを楽しむ だすか?

西洋人は
生きることを楽しみます。

そのために
お金と時間を使います。

テーブルの上の花も食器もデザインも
料理も音楽も。

そして恋もね。

これらの酒も 我々が生きることを
楽しむために必要なものです。

生きることを楽しむ…。

そや。

日本にも きっと
こんな時代が来る。

山や。

まだ登ってへん山が

こないに こないに
ぎょうさんある。

山?

見えるんだす 山が。

ありがとさんだす。

おおきに。 おおきに 皆さん。

おおきに。

おおきに。 おおきに。

ありがとさんでおます。
ミスター鳴江。

次は 大英帝国のお酒を
ぜひ あなたに。

私の故郷の宝
スコットランドウイスキーです。

琥珀色。

わての琥珀や。

トラスト トゥー ミスター ナルエ。

チアーズ!

乾杯!

このウイスキーが もう
火のようでおましてな。

飲んだ途端に 胸の中が
ボーッと燃えるようでおました。

そのくせ鼻にフワッと抜ける
花の香りが…。

大したもんやなぁ。

ところで萬治郎。
へえ。

これ何や?

そら 船が横浜に寄ったときに
ビール工場に行きましたんやけど

見学は お断りだよと。

そこを何か こう
勉強さしてくれと頼み込んで

やっと貰うた ビール瓶の蓋でおます。

やっぱ 蓋か。
へえ。

ほう。 で これ何や?

あぁ こら 西洋はんの
持ち運びできる お銚子でおます。

お銚子?
へえ。

ほんで これが レストランの献立表。

これが カタログ。
カタログ?

へえ。 ちょちょっ…
この広告 見とくなはれ。

パイプ買うたら
景品にパラソルつけるって書いてます。

えっ?
ノベルティーたら言うもんで

パラソル欲しさに おなごはんが
パイプ買うんやそうだす。

はぁ~。

えらい商売の仕方が
あるもんだすなぁ。

ほんまやなぁ。

それにしても えっ?

100円が ビール瓶の蓋になりよった。

アハハハッ!

100円が アハハッ。

いただきます。

あぁ おいしい!

やっぱり お母ちゃんのうどんが
いちばんや。

調子のええこと言わんとき。

神戸に行くって出て行ったっきり
1か月も音沙汰なしで

やっと帰ってきたと思たら
なんや そのハイカラは。

へえ…。
100円は なんぼ残ってます?

えっと… 80銭ほど。

なんや その散財は!

あんた どこの御大尽さんや。
まぁまぁ お母ちゃん。

おいしいなぁ。

< これを機に
萬治郎は再び猛然と働きだした。

昼間は 外国人居留地を回って
御用聞きをし

夜は納屋にこもり

日本人向けの
新しいブドウ酒の調合に励んだ。

この頃
居留地から缶詰の注文が増えた。

缶詰で儲けを出した萬治郎は

鳴江屋の近くに
小さいながらも自分の店を構え

屋号を暁屋とした>

バンザーイ!
おおきに。

(一同)バンザーイ!

< まさに 日の出の勢いである>

こんにちは。
雨でんな ごめんやっしゃ。

< ところが…>

危ないで。 ごめんやっしゃ。

久しぶりだすな 萬吉どん。

へえ。

えっ…。

常どん?

覚えててくれたか!

 

いや 感激やで!
常どん!

萬吉どん!
うわぁ 常どんや 常どんや!

お待たせしま…。

おいでやす。

さぁ どうぞ。

旦さん お待ちかねやで。

待ってたで 萬吉どん。

さぁ。
あら こらまた えらい… あぁ~。

萬吉どんが小南屋を辞めて すぐ
わても お暇もろてな。

今は海軍はんと
商いさしてもろうてんのや。

海軍はんと。

缶詰と洋酒の仕入れと納入や。
はぁ~。

どうせやったら
今 評判のハイカラの旦さんから

仕入れさしてもらおうと思うて。

うわっ こら…。
700円ある。

缶詰と洋酒 あるだけ売ってくれ。

全部 言い値で買うさかい。

言い値?

海軍はんは 今 ロシアと戦争中や。

食料も酒も なんぼでも欲しい。

金に糸目はつけへんて言うてはる。

今が商機や 萬吉どん。

常どん… へえ おおきに!

よっしゃ~ 商談成立や!

南地に繰り出そう。
えっ?

祝いの席を設けてあんねん。

「千里も走るよな やぶの中を
皆さん覗いてごろうじませ」

キャー いや~。
ほれほれ ほれほれ~。

いや~ やめて。
いたっ!

何べん さすねん。

ほれ よいしょ。

夢か うつつか

あっという間に
1, 000円超えの商いや。

あっ また違うおしろいの匂い。

細かいことを…。

おいでやす。

こんにちは。
(いびき)

萬治郎。

萬治郎!
へえ!

あぁ お兄ちゃん おいでやす。

お前 そんな一張羅 着とったら

荷下ろしなんかでけへんやろ。

なんのご用か思たら

わては ハイカラの旦さんだっせ。

このハイカラは 暁屋の広告だす。

夜ごと南地で遊んでるって
うわさになってるで。

それに 西城商店

この頃 手形払いに
なっとるそうやないか。

心配せんといておくれやす。

常どんは でっち時分に
同じ釜の飯食うた友達だす。

ええ人でおます。

それに こないして
昼間 楽さしてもろてるさかい

夜のブドウ酒の調合に
時間が たっぷりとれるんだす。

女遊びしてきたて
看板ぶら下げてか?

はぁ?
「はぁ?」やない。

看板!

あぁ…。

へえ。
あぁ ええわ。

あっ!
「あっ!」やないがな。

あららら こないなところに…。

常どんは ええお人でおます。

お兄ちゃんは
常どんを知らんさかい

心配しはるけど

わては よう知ってますさかい。

号外だ!

東郷大将の連合艦隊

対馬沖で バルチック艦隊に大勝利や!

号外! 号外や。
ほら 押さんと みんなあるけん。

あかん… あかん!

あかん! あかん!

お兄ちゃん!

どないした?

先月の缶詰と洋酒の支払いが

いつまで経っても
あらしまへんのや。

催促に行ったら
西城商店は もぬけの殻で

倉庫も引き払われてて
納めた品もあらへん。

お兄ちゃん 助けとくなはれ。

西城商店の手形
暁屋が裏書してますねや。

手形に裏書を?

アホ!
なんで そないなことしたんや!

すんまへん。

常どんが…。

常どんが まさか常どんが…。

暁屋は もう あかん。

わてのせいで

缶詰工場の皆さんまで
倒産させてまう。

このとおりだす!

助けとくなはれ!

あんさん。

みさ このことは
お母ちゃんには内緒やで。

萬治郎… 手形は なんぼや?

鳴江屋が肩代わりしてやる。

あさってまでに 5, 500円。

5, 500円!?

あっ あっ… あんさん!

鳴江屋の身代では
とても足らしまへん!

あかん。

もう おしまいや。

萬治郎!

泣いてる暇あったら
わてと金策せぇ!

それで 丸一日

あちこち金策いたしましたが

明日 朝までに まだ
1, 050円 足らしまへん。

頼れるところは もう
大川屋さんしか…。

どうか 鳴江屋ののれんを担保に

お金 貸したっとくなはれ!

1, 050円… 大金や。

暁屋さん うわさは聞いてまっせ。

へえ。

正直な商いしてはる お兄さん。

その鳴江屋さんののれんまで
担保にさして

こないな崖っぷちに立ったのは

誰のせいやと思うてなはる?

大川屋さん どうか…。

やり口は 玄人の詐欺師でおます。

そのうえ ソイツは
弟が一緒に苦労した

でっち仲間でおます。
わては暁屋さんに聞いておます。

こないなことになったんは
わてが全部悪うおます。

アンタの何が あかなんだ?

人を…
人を見る目が あらしまへなんだ。

1, 050円 全部?

暁屋さん。

アンタが 詐欺師のせいで
こないなったと答えたら

1銭たりとも出さんつもりやった。

そないな者に出すお金は
死に金やさかいな。

死に金…。

だが アンタは 自分に見る目が
なかったとわかってなはる。

それやったら
二度と同じ轍は踏まんやろ。

この1, 050円は 生き金や。

大川屋さん。

おおきに… おおきに!

よかったな 萬治郎。

お兄ちゃん わては…。

もう 朝やで。

お兄ちゃん!
今度は何や!

でけた。 でけました!

やっと
納得のいくブドウ酒がでけました。

紅印でもない 梟印でもない

ポルトガルのポートワインのものまねで
終わってへん

正真正銘
これが日本の新しいブドウ酒だす。

飲んでみとくなはれ。

お父ちゃん でけたで。

ささぁ さぁ さぁ 飲んでみて。

あぁ。

これは おいしい!

萬治郎のブドウ酒をこれまで
あれこれ飲まされてきたけど

こないに甘うておいしいのは
初めてや。 なぁ みさ?

へえ。 これやったら

あてら おなごでも
なんぼでもいただけます。

だっしゃろう?

これやったら
東京の梟印にも必ず勝てます。

で 名前は どうすんねや?
へえ。

天道ポートワインでおます!

お天道さんの 天道か?

へえ。

あの日の戒めを心に刻んで

これからの わての商いを
このブドウ酒に見張ってもらいます。

そうか。

お天道さんの天道か。
恐れ多い名前やことな~。

へえ。

あかん あかん。
こないな赤色やあれへん。

朝一番のお天道さんの
真っ赤な あの赤色やて

何べん言うたらわかるんや。

暁屋さん これが限界でおます。
もう これ以上の色は…。

出しなはれ。

うちの屋号の暁の色や。

金は なんぼかかってもかまへん。

ほんまだすか?
あぁ ほんまだっせ。

やってみなはれ。

この肩口がな もっとこう
柔らこう こないこう

丸う でけしまへんのか?

ほな あさってまでに100本
頼みましたで。

いや 大将
型作んのに2日はかかります。

大将 大将! あのね

うちの職人 大将のむちゃな注文で
徹夜続きなんやさかい。

こっちゃかて 何日も寝てまへん。
ここが正念場だすのや。

無理だすって。

やってみなはれ。

やってみな でけるかでけへんか
からしまへんやろ。

暁屋が売り出しました
天道ポートワインでおます。

<萬治郎が売り出した
天道ポートワインは

38度のアルコールで38銭。

当時の物価で 米4升が買える
高級品であったが

大阪の新しもの好きな人々に
好評を博した>

おいしい!

おいしい? だっしゃろ!

<萬治郎は勢いに乗り
東京へ売り込みをはかった>

これは おいしい。

よくここまでのものを。

ありがとさんでございます。
で ご注文は なんぼほど。

5ケースも? おおきに!

いやいや 5本。

5本だけ
仕入れさせてもらいます。

ご… 5本? たったの?

たしかに天道は
梟印と同じほどうまい。

しかし 同じほどうまいなら

先に売れている
梟印をしのぐことは難しい。

まず 5本で
様子を見させてもらいます。

へえ… 承りました。

いらっしゃいませ。
いらっしゃいませ。

いらっしゃいませ。
あぁ おおきに。

どうぞ こちらへ。

何にいたします?

天道ポートワイン おくんなはれ。

天道? 何ですか? それ。

あらら~ ここは東京で

今 一番人気のカフェーやと聞いて
来ましたんやけど。

天道 置いてありまへんのか?

そらあかん。

あない おいしいブドウ酒は
あらしまへんで。

ほな ちょっと
考えさせてもらいますわ。

はい。

いらっしゃい。

私 ミドリ。 何を召し上がる?

そやな…。 なぁ ミドリはん

あんな これなんやけど…。

これ どない思いはる?

あら ワイン? かわいい瓶ね。

私にプレゼント?

え? あぁ あぁ…
お近づきの印や。

あら~。

飲んでみて。

おいしい。 おいしいじゃない!

天道ポートワイン?

いける口やな? もう1杯いき。

お客さん さっきから見てたけど
酒の持ち込みは禁止だよ。

支配人よ。

おぉ そらそら。 支配人さんも
天道の味見しておくれやす。

大阪の 一番人気のブドウ酒だっせ。

アンタ 客のふりして売り込みかよ。

まぁまぁ そないなこと言わんと。

さぁ ほれ 一口飲んで どうぞ。

(咳払い)

何しはりますねや!

まずいね。 うちには合わない。

おかえりだ。
支配人 私はおいしいと思うわ。

君は引っ込んでろ。
お客さん 帰ってくれ。

ごっつぉさんだした。

アンタ!

飲んだのは水だけだろ。

それに俺は 大阪の
その ねっちりした言葉が

大嫌いなんだ。

そら おおきに すまんこって。

けど 商いするもんが
お金 粗末にしたら

バチ当たりまっせ。

チップや。 とっとき。

いいの? こんなに お客さん。
へえ。

あんさんは わての天道の
東京で最初のお客さんや。

「おいしい」言うてくれはった。

ほんま おおきに。

いいから さっさと出ていけよ!

待って! 待って!

お客さん いい男っぷりね!

ハハハ… ミドリはん
わての大阪弁

どうにもならへんけど

わては 東京が嫌いやないで。

ハハハ…。

ハーッ ハハハ!

まいど!

おかえりやす!
ただいま。

お家さんが おいでだす。

お母ちゃんが?
へえ。

どないや? おいしいか?
へえ。

やっぱり うどんは大阪ですな。

昔 小南屋の旦さんと

東京で うどん食べたことが
おましたけど あら まずかった。

大阪と東京では
言葉も舌も違うさかい。

萬治郎 東が難しいなら
西をまず固めなはれ。

西?

四国の高松に
お父ちゃんが懇意にしてはった

米穀店がありますのや。
これは そこのうどんだす。

おいしいもんを作るお人は
おいしいもんをわからはる。

さすが 鳴江屋のお家さんや。

ほな 早速 今から
高松にいて参じます。

あぁ 行っといで。 善は急げや。

何や?

どっか悪いんと違うか?

いつものお母ちゃんやったら
「ちょっとは休め」てうるさいのに。

思い立ったが吉日だす。
休んでる暇なんか あらしまへん。

さぁ 高松行き。 お行き。

< この日のちよは
ことのほか 強引であった>

こりゃうまい。

早速 30… あぁ 50ケースもらおか。

そないに?

おおきに。
ありがとさんでおます。

暁屋さん どないしたん?

へえ。 えらい とんとん拍子で

なんや
キツネにつままれてるみたいで。

そない言うたら

出かけにお母ちゃんが
作ってくれたうどん

キツネうどんだしたわ。

アハハハハ!
ハハハハ!

ようこそ おいでくださいました。
あるじの姪のサトと申します。

お茶
温かいものにお替えしますね。

あぁ… へえ。

サトは東京生まれで
元は士族でしてな。

気に入ってくれましたか?

へえ… いや あの
気に入るやなんて めっそもない。

お目にかかっただけでも
目の保養だす。

ほな わては これで。

まぁまぁまぁ
今日は うちに泊まって

明日 ゆっくり 高松見物でも
していったらええわ。

サトに ご案内させるけん。

高松で見合い?

天道ポートワインの売り込みで
飛び回ってる萬治郎が

よう承知しましたな。
そこは持っていきようや。 フフフ。

あっ おかえり。
へえ 行て参じました。

みさ 暁屋の様子は
どないだした?

へえ 萬治郎さん

今夜は 高松に
お泊まりやそうだす。

気に入ったみたいやなぁ フフフッ。

それに 天道は
生薬の知恵も使てて

体にええんだす。

ただ 安いもんやあれへんさかい
なかなか…。

でも 昨日の叔父さんとの商談は
すぐにまとまりましたわ。

へえ。 つらつら思うに
うちのお母ちゃんが

あらかじめ いろいろと

話を通してたんやないかなぁと…。

大人のご隠居たちに
売れるかもしれませんね。

あっ フフッ。

何が?

天道ポートワイン。

ご隠居たちなら
自由なお金もあるし

健康にも
気を遣ってらっしゃるでしょ?

なるほど!

ほな 医学博士に
推薦状でも書いてもらおうかな。

賛成。 それを
新聞の広告に載せるの。

新聞? そら あきまへん。

普通の人は
新聞なんて買わしまへん。

でも ロシアとの戦争で
ずいぶん号外が出ましたわ。

それで みんな
新聞を買うようになりましたの。

私も買って読みますもの。

サトさん 新聞を?

女のくせにはなしよ。

フフフッ フフフッ。

女性だって
新聞くらい読まないと

近代化に取り残されちゃう。

さよか。
こら うかうかしてたら

男を蹴散らして
おなごはんの時代が来ますな。

ええ。

きっと。

そないな時代に
誰かの嫁さんになって

家におさまってもええやなんて
思てはりますか サトさん。

そんな時代に

おもしろいことをやろうとする
男の人の奥さんになって

お手伝いができたら
楽しそうだと思ってます。

よっしゃ!
え?

天道を… 天道を こっちにもっと
送らしますさかい

小川米穀店さんの倉庫の隅
貸しとくなはれ。

あっ ええ。
品がつきしだい

四国中に売り込みや
手伝っとくなはれ。

ええ。
そのあと わての嫁さんになって

一緒に大阪まで帰っとくなはれ。

サトさん… 嫌だすか?

聞いてはいましたけど
ずいぶん忙しい人。

(笑い声)

<サトとの結婚を機に

萬治郎は 暁屋を法人に改め

合名会社 暁屋洋酒店とした>

<新しいものは何でも取り入れ
工夫をし

天道ポートワインの他に
シャンパン ジュース ソースなどを

次々と売り出した。

萬治郎の暁屋は
大正モダニズムの先頭を走った>

当たった 当たったで!

天道劇團の芝居のチケット
当たったで!

<天道劇團とは
天道ポートワインの宣伝のため

萬治郎がつくった
オペラの劇団である>

まいど! 暁屋でおます!

< また 天道看板班を組織し

サイドカーで 全国の小売店

天道のホーロー看板を取り付けに
走り回った>

< よい商品を作るのは当然

その上に大事なのは
宣伝広告であると宣言し

常に時代に先んじた>

(中井)大将 大丈夫だす。

よし 見してくれ。
へえ。

(一同)お~。

ええ赤色や。

これや これこそ天道の色や。

けど大将 こないな裸
あっちこっちに張り出したら

うちの宣伝部
警察に引っ張られまっせ。

番頭さん よう見なはれ。

そないにいやらしいか?
この広告。 ん?

一瞬 ドキッとします。

けど いやらしいかと言われたら

きれいで 目が離されしまへん。

せやろ
それが広告ちゅうもんや。

かまへん。

やってみなはれ。

(一同)へえ!

<極秘で作業が進められた
日本初の美人ヌードポスターは

発表と同時に 大きな反響を呼び

売店
我先に これを張り出し

女性客からも大きな支持を得た。

こうして 天道ポートワインは
東京にも販路を拡大し

そして…>

さぁさぁ こちらにどうぞ。
あぁ おおきに。

お客さん 何を召し上がる?

天道ポートワイン おくなはれ。

まぁ!
お客さん お目が高いのね。

天道は 今 うちの店で
一番人気のワインよ。

私も大好き!
さようか。

ほら 見て。

なぁ ミドリはん いてはるか?

ミドリさん? 知らないわ。

そうか。

チアーズ ガイズ。
チアーズ。

グッド。
ワン モア プリーズ。

とうとう東京で
梟印に勝ったか。

へえ!
ハハハッ!

これも すべて
旦さんのおかげだす。

いいや。

お前の土性骨や。

ようやったな 萬吉。

いや 萬治郎どん。

旦さん…。

勝って 兜の緒を締めよ。

お前 あれこれ 新商品
出してるみたいやけど

ここらで 天道一本に
絞ったらどないなんや。

いいえ。

わてには 次の山が見えてます。

ウイスキーをやりとおます。

ほお…。

ちょっと前でおます。

リキュールを工夫しようと思て
仕入れてた アルコールが

パッ 化けたんでおます。

中井:大将 わてらには
なんの匂いも…。

ここや!

あら! なんで こないなとこに
ブドウ酒の原液がある。

違います。 これは ブドウ酒の原液を
使うたあとの樽に

リキュール用に仕入れて余ったアルコールを
入れてたもんだす。

アルコールを?

余ったアルコールが
樽の中で熟成されて

紛れもないウイスキー
なっておりました。

すぐ 近畿の名水のなかから
相性のええ水を探しまして

調合して
3, 000本売り出したところ

これ 広告も宣伝もせんうちに

だらぁっと
売り切れたんでおます。

わても飲んだ。

うまかった。
そうだすか! おおきに。

暁屋のバッカスが でけたんは
そういういきさつか。

へえ。

萬治郎どん。

やめとき。

旦さん…。
暁のバッカスは奇跡や。

たまたま うまいこと
熟成しただけや。

わても 昔 ウイスキー
研究したことがある。

原液は輸入できん。

自分で作らなあかん。

大仕事や。
わかっております。

万が一 原液がでけたとしてもや

樽に詰めて 4~5年
いや 10年 20年

熟成させなあかん。

その間 利益はない。

そやのに 仕込みだけは
毎年 続けなあかん。

ウイスキーは 金食い虫や。

金食い虫のバケモンや。

そのバケモンが
日本人の口に合うんだす。

いいや。

日本の気温と湿度では
熟成は失敗する。

やってみんことには

やれるか やられへんか
からしまへん。

わからんことに大金使うんは
博打や。

ここまで育ててきた天道ポートワインを
潰すことになる。

わてが年取ったから

弱気になっての意見やと思うか?

萬吉。

いえ。

(地鳴り)

なんや!?
(悲鳴)

(悲鳴)

大正12年9月1日 11時58分。

関東大震災発生>

サト!

寿太郎! 慶次郎 吉三郎!
大事ないか!

大将! ご無事だしたか!

サトは無事か!? 子どもらは?

あなた!
サト!

吉三郎!

お父ちゃん! お父ちゃん!

ケガあらへんか 慶次郎。
寿太郎 大丈夫か?

うちも店も大丈夫だす
ケガ人もおりまへん。

何よりや。

<大阪の萬治郎が
震災に襲われた関東地方の

最初の情報を得たのは
3日後であった>

東京がのうなってる…。

店の品 倉庫の品

食べもん 飲みもん
あるだけ荷造りや。

お~い みんな! 東京に行くで!

(寿太郎たち)えっ!?

サト 銀行 行って
お金おろしてきてんか。

はい! すぐに。

お父ちゃん!
なんや。

こんなときに
売り込みやなんて ムチャや。

道路も汽車も 名古屋から先
動いてへんて書いてます。

何もかんも ズタズタやて…。
寿太郎!

お前には 土性骨があらへんのか!

番頭さん。
へえ。

東京の小売店さんらの伝票
もう 全部全部 持ってきてくれ。

大将! まさか
その上に掛け取りに?

行かんとって
大阪も まだ時々揺れる。

慶次郎。

どんなときでも
商人は行くときは行くんや。

早く店を始めるんだ。

店が閉まってちゃ 困るのは客だ。

社長! 国生社長!

国生社長!

暁屋さん!?

このたびは お見舞いが遅れまして
申し訳ないことでおます。

あなた…
どうやって ここまで?

へえ。

陸路は めちゃめちゃやさかい
船で東京湾まで参りました。

そのあとは 歩いて。

商売の品 持ってまいりました。

どうぞ 思う存分
商いしとくなはれ。

ほら お手伝いや!

(中井たち)へえ!

待ってください!

入荷できるのは
たいへんありがたいことです。

しかし 先月の支払いも まだ。

今月も このありさま。

せっかくの品ですが

仕入れる金は
今 国生商店には…。

先月の支払いは済んでおます。

今月の分も
先にお支払いをいただきました。

いや 暁屋さん それは勘違いだ。

暁屋さん…。

あぁ 番頭さん 後は頼んだ。
へえ!

寿太郎 他の店 回るで!
へえ!

それっ!

ハァ…。

人の営みは はかないもんやな。

えっ?

お母さん!

どないしたん?
ケガしてはりますのか。

ちょっと待っとき。

いただきます。

ミドリはん!

アンタ 昔 カフェーにおった
ミドリはんと違うか?

全部焼けた。

わてや。

アンタにブドウ酒を飲んでもろた
ほれ 大阪弁の!

ほっといてよ! 私も死ぬ。

うちの人のところに行くの!
お母さん!

あっちの救護所 行こ。

終わったの。

私も東京も
この国は全部終わったの!

終わってへん!

やり直せる!

この国は 踏ん張れる!

さあ 来なはれ。

ほな わてが おんぶしたる。

お父ちゃん。
手ぇ出すな!

この人はな ミドリはんはな

暁屋の東京で
いちばん最初のお客さんや。

わての恩人や。

日本は これからや!

これから わてらが
ええ国にするんや!

終わってたまるか!

地震がなんじゃい!

ミドリはん 今は苦しゅうても

生きてたら
またきっと楽しいことがある。

そんときのために わてが
とっておきのもんを作るさかい

待ってておくなはれ。

待ってておくなはれ。

<大阪に戻った萬治郎は
社員たちを集め

国産ウイスキー醸造計画を告げた>

そないなもんに手ぇ出したら
暁屋はもちません。

アホ抜かせ!

わてらは 商人や。

天道で
あぐらかいてたら終わりや。

次の山に登るんや。
けど…。

そや…
ボン どない思いはります?

わてか?

わては…。
ええか 寿太郎。

商いは誰も登ってへん山に
最初に登んのが肝心や。

けど お父ちゃん。
番頭さん

初期費用を大至急出してくれ。

蒸留所を造るよって
土地も探さなあかん。

えっ 大将!
今ある工場のどれかで

でけしまへんのか。
アホ!

そんな片手間な仕事やない。

今日から仕事が終わったあと
ウイスキーの勉強会を始める。

えっ…。
いや…。

ウイスキー醸造所の費用
最初だけで300万円やて。

300万円!?

カーッ
なんぼ大将の夢か知らんけど

暁屋が潰れたら
わてら生活でけしまへんで。

店 変わんねやったら
今のうちやで。

どないしよ…。

お母ちゃん うち 潰れんのか?

ただいま。
(一同)おかえりやす。

お父ちゃんは?
銀行 回ってはります。

300万円てな金

銀行も おいそれとは
出してくれへんみたいで。

そうか。 ほんま 堪忍やで。

みんなにまで心配かけてしもて。
やめとくなはれ。

今 なんて言うた?

国産のウイスキーを造る?

へえ 造ります。

萬治郎 気は確かか?

お前 震災からこっち ちょっと
気が高ぶってるんや。

なぁ みさ。
へえ。 震災からこっち

不景気で鳴江屋も困ってます。

いつか誰かがやります。

それやったら わてがやります。

サト お前は反対やろ?

なぁ? サト。
お母ちゃん 心配あらしまへん。

最初の品を出すまでの4~5年を
しのいだら やれますわ。

暁屋を潰す気か!

サト 反対やて言うておくれ。

お前の言うことやったら このアホも
ちょっとは耳を貸しますやろ。

お母さん 長男の寿太郎は
忍耐強くて優しい子です。

なんや急に?

次男の慶次郎は
頭がよくて飲み込みが早い。

三男の吉三郎は
生まれながらに愛想がよくて

皆さんに
かわいがってもらってます。

よくぞここまで
父親に似たものだと

感心しております。

たとえ
10年 20年 30年かかっても

暁屋が潰れても
萬治郎さんと私が倒れても

萬治郎さんの
血を引く子どもたちが

必ず やり遂げます。

そんなにやりたいなら
やってみなはれ!

(笑い声)

さすが わての嫁はんや!

(笑い声)

よう言うてくれた。

お前が賛成やったら百人力や。

ウイスキーって
フランスでもドイツでも造っていない

造り方は イギリスの秘伝。 門外不出。

なんや お前
勉強会聞いとったんか。

それを 一から工夫するの?

さすがに それやと
寿太郎らの孫子の代までかかるわ。

実はな

ウイスキー醸造の第一人者
カール博士のとこで

ウイスキー造りを学んだ日本人がいる。
ええっ?

松亀はんいうて
なんやえらい縁起のええ名前の

まだ若い人や。
帝塚山におるらしい。

暁屋で雇おうと思てる。

給金は4, 000円で10年契約や。

4, 000円で10年?

安いか?
高い!

(笑い声)

もう。

(笑い声)

高いか。

お断りします。
松亀さん。

僕は浪花酒造の社員として
ウイスキー造りを学ぶために

ロンドンに派遣されました。

しかし 莫大な追加資金が
必要になり会社は撤退。

お引き取りください。
わては 撤退しまへん。

男の約束や。

給金は 4, 000円。
10年契約でどないだす。

もう こりごりです。

国産ウイスキー 造りとうないんだすか。

日本じゃ無理です。

お引き取りください。

おかえりやす。
(一同)おかえりやす。

松亀さんは どないだした?

あら世捨て人や。

お前ら 今 ホッとしたやろ?

とんでもあらしまへん。
残念でおます。

あぁ お父ちゃん

銀行の副頭取さんと
会食の時間だす。

わかっとるわ!

なんや ひょろっと青白い顔して。

はぁ?

今の若いもんは
ほんま どいつもこいつも…。

(一同)いっておいでやす。

(笑い声)

<萬治郎の松亀詣でが始まった>

ほんで 東京から ぎょうさん
大阪に人が流れてきてるゆうて。

< しかし ウイスキーについては
一切触れず

萬治郎は世間話に花を咲かせ

一方的にしゃべるのが常であった。

松亀は不審に思いながらも

萬治郎の にぎやかな訪問を

いつしか
心待ちにするようになった>

こんにちは。

あっ こら ロンドンのティーポットだすか。

ええ。 ちょっと出してみました。

おおきに。 本場のティーだすか。
よばれます。

差し上げるとは言ってないけど。

へっ? なんだすて?

いえ 何も。

どうぞ。
ケーキまで! おおきに。

うっ。

あっ。
お父ちゃん 血や。 結核や。

アホ ただの鼻血や。

結核結核結核結核や!

結核や…。
こら 慶次郎! 座って食え!

こら! ちょっ… 待たんかい!

なんやねん あいつは。

寂しいのよ。

寿太郎は会社に入って

いつも
お父さんのそばにいられるけど

慶次郎は忙しいお父さんに
めったに会えない。

鼻血が出るほど疲れてる。

今日は少し休んだら?

わてが昔きかん坊やったんも
寂しかったからや。

人には拭うても拭うても
拭いきれん寂しさがあるんや。

松亀はんは イギリスで一人で苦労して
寂しさの感度を上げてしもた。

わては それを下げてやりたい。

あなたは今も きかん坊よ。

ごちそうさんでした。
はい おっしゃってたもの。

ああ おおきに。

ほな 行ってくるで。

そしたら カフェーの支配人が
わての肩をむんずとつかんだ。

そこに女給はんが
待った 待った待った! と

割って入って
わてのほっぺに チュッとな。

チュ?
私 天道おいしいと思うわって

へえ もう 公衆の面前で…。

そんときの支配人の顔
見ものだしたわぁ。

鳴江さんの世代には
ロマンがあったんですね。

けど ロマンスには
至りまへんだしたわ。

「ス」がついたら
なお よしやったのに。

アッハハハ…。

僕らの世代に
もう ロマンはありません。

けど 「ス」がついたある。

ロマンスや。

イギリス人の奥さんて
ほんまハイカラな自由恋愛だすわな。

あっ そや
うちの女房が アンタにこれを。

ん? 何ですか?

水でおます。
水?

まあまあ 一口 どうぞ どうぞ。

ん?

山崎の水でおます。

山崎は霧が湧くほど
湿気があって

けど 風が吹くと一気に乾燥して
スコットランドに よう似てる。

澄んだ空気と
きれいな森がおましてな

千利休も茶室を建てたという
名水の地でおます。

今 土地の売買交渉を
進めてますねや。

山崎は三十石船の行き交う
交通の要所でもありましてな。

でけたウイスキーを運ぶのに
うってつけや。

ウイスキーだけやおまへんで。

わては お客さんを
山崎に運んで行って

どや ここが日本のウイスキー
最初に造った場所だっせと

自慢したいんでおます。

あなたは変わった商売人だ。

ポットスチルが必要です。

ポッ… ポット ポットなんだす?

ポットスチルは これです。
ああ これだっか。

高さ 約7m 直径は約5mの
銅製の大きな釜です。

なじみの鉄工所に
すぐに発注します。

完成したら船に乗して

大川から山崎まで
大阪中にお披露目や。

それと 大麦の粉砕機と
ろ過機も必要です。

これは ロンドンに
発注しなくちゃなりません。

任しとくなはれ。 大麦は
栃木に ええ産地がおますのや。

醸造の職人は

広島の酒蔵の杜氏はんらに
もう声はかけさしてもろてます。

広島の酒蔵の杜氏? なぜです?

松亀はんは
広島のお人だっしゃろ?

ふるさとの人間と
一緒に仕事したら

きっと楽しい思いましてな。

あとは 何がいります?

何でも言うとくなはれ。

ハハッ なんて人だ。

段取りが よすぎますよ。

ハハハッ よう言われますわ。

(笑い声)

松亀はん?

いけん。 久しぶりに笑うたら
笑いが止まらん。

いたしゅうて いけん。

松亀はん しっかりしとくなはれ!

水 水飲んで。 ほれほれ ほれ。

ど どうも お見苦しいところを。
あ~ ビックリした。

それより
「いたしゅう」て なんですか?

広島弁です。
苦しい という意味なんです。

ハハハハ…。

苦しい?
(笑い声)

<松亀と10年契約を結んだ
萬治郎は

正式にウイスキー部を発足。

松亀は本場仕込みの知識と技を

社員たちに熱く語り 伝えた>

こうして何年もかけて
熟成させた ウイスキーの原酒は

眠っていた樽によって
味が微妙に異なります。

ええ! 味がちごうたら
売り物にならしまへんで。

ウイスキーの原酒は人と同じ。

同じ年に仕込んでも
十人十色に育ちます。

個性が強い者 弱い者。

(松亀)貯蔵庫に置かれた
位置によっても

個性が変わります。
その十人十色を

どないして
売り物にするんだすか。

ブレンドです。
十人十色の原酒を

経験と才能と ひらめきで
ブレンドして

そのブレンドが成功して初めて

僕たちのウイスキーの完成となります。

一生をかけるのに
不足ない仕事だわ!

<同じころ 萬治郎は金策
東奔西走していた。

国産ウイスキー醸造
前代未聞の規模に

銀行は軒並み融資を断り

萬治郎は生糸相場で財をなした
相場師にも談判した>

お願いいたします!

利息以外に何がもらえる?

常磐津」を
うたわしていただきます!

「チャチャチャン チャンチャンチャン
岸のさざなみ うち寄りて」

「昔へ還る 常磐津の」

「松の」

ハッハッハッハ…。

ハッハッハッハ…。
まだ こっからですわ。

もうええて。
もうええて…。

暁屋さん。
はい。

300万円を裁量できる銀行は
日本にはあらへん。

ロンドン銀行の支店が東京に
あるよって 行ってみなはれ。

話は わしがとおしておく。

おおきに
ありがとさんでございます!

早速 いて参じます!

< なんとか資金が工面でき
ウイスキー蒸留所が山崎に着工。

蒸留が始まったのは
大正13年の11月であった>

<時代は 昭和に移った。

萬治郎は
ウイスキーの毎年の仕込みに加え

更なる新商品の開発に
まい進した。

カレー シロップ 醤油 ビール

果ては 歯磨き粉まで

口に入るものなら なんでも
という勢いである>

何やってんのや お兄ちゃん?

うん?

こら もう遅い はよ寝え。

なあ ウイスキーはまだできへんの?

ビールが よう売れてんのやさかい
全部ビールにしたらええのに。

慶次郎 それ お父ちゃんの前で
言うたらあかんで。

(寿太郎)どやされる。

(慶次郎)
お父ちゃんなんか怖ないわい!

(吉三郎)わては
お父ちゃん 好きや。

< しかし
小南理助が予言したとおり

ウイスキー造りは金食い虫であった。

暁屋の内実は 火の車で…>

< こうして 4年の歳月が流れ

ついに 樽出しの日が来た>

これと… これは
なかなかのものですが…。

よっしゃ!
ブレンドは わてに任してくれ。

問題は商品名やけど…。

寿太郎 何かあらへんか。

へっ? わてだすか?

こないだのガリ版
おもしろかったで。

文才がある。
何かあらへんか?

社内報だす。
お父ちゃんのやってること

販売員さんや営業所
工場の職人さんらにも

わかってもろたら
暁屋がもっと一丸となれると…。

商品名や!

何かあらへんのか?
へえ。

暁屋の暁は
英語で ライジングサン…。

ライジングサンウイスキー… どうでっしゃろ。

「おい ライジングサンウイスキーあるか」。

「へえ ライジングサンウイスキーおまっせ」
長いわ!

すんまへん。

ライジングサン ライジングさん…。

ライジンさん…。

雷神ウイスキーや。

ワインは 「天道」 ウイスキーは 「雷神」。

威勢がええ!

(寿太郎)お父ちゃん どこへ!

アホ! 瓶とラベルの発注や!

失礼します!

< ついに 日本初の国産ウイスキー
「雷神」が発売された。

が 期待ほどは売れなかった>

日本人の舌には まだ
早かったのかもわからしまへん。

焦げ臭いと もう 散々でおます。

ハハ… あぁ。

大丈夫か?

ほんまに飲みはりますのか。

これが萬治郎のウイスキーか…。

へえ。 わての子どもだす。

お母ちゃんの4人目の孫や。

乾杯。

かいらしなぁ。

ええ匂いや。

ちょっとにしときや。

アンタと同じや。

きかん坊な味やなぁ。

<数日後 母 ちよは

老衰のため
静かに息を引き取った>

今度は何を?

ああ。 カクテルレシピを作ろ思てな。
きれいな色ね。

わかってくれるか。
お前は ほんまに目ぇが高い。

ひと口飲んでみ。
ええ。

おいしい!
そうか! うまいか!

うん。
そうかぁ。

いただきます。

お母ちゃんも
よう うどん作ってくれた。

おいしい。

昭和6年 満州事変が勃発。

時代は急激に戦時色を帯び

経済状況は更に悪化した。

萬治郎はウイスキーの仕込みの金を
調達するため

昭和8年
好調だった歯磨き粉の権利を

昭和9年には ビールの権利を
譲渡 売却し これをまかなった>

あと1年 あかんか。

ハハハハハ てんごや てんご。

旅立ちに涙は禁物や。 なぁ。

わては 松亀はんのウイスキー造り
応援してまっせ。

大将のおかげで 日本でも
ウイスキーが造れると実証できました。

大将のおかげで
人を もう一度信じる心

夢を もう一度追いかける心も
取り戻せました。

何よりや。
大将…。
うん。

でも 本当は 少し怖い気も…。

やってみなはれ。
まず やってみな

やれるかやられへんか
わからへんやろ。

はい。

では お元気で。
へえ。

元気でな!
はい。

<松亀も北海道へ去った>

(寿太郎)銀行にも
貸すお金があらへんのだす。

お金は みんな
軍艦やら 大砲やらに

つぎ込まさせられてるさかい。
探したら きっと どっかにある。

お父ちゃん
次の仕込みは 見送ったほうが。

あほんだら! そやさかい
お前は いつまでも半人前なんや。

暁屋の若社長やろ。
苦しいときほど挑まんかい!

せやけど ワインもウイスキー
贅沢品や言うてにらまれてます。

お父ちゃん。

あきまへん!
はがしたら憲兵に捕まります!

うるさい!
あぁ すんまへん すんまへん。

お父ちゃん?

きれいやなぁ…。

この花屋も
今日が店じまいだそうで。

財布はたいて
あるだけ全部 こうてきてしもた。

(笑い声)

このごろは
倹約せえせえ言われて

きれいなもんは
久しゅう見てへん。

ええなぁ。 花は きれえや。

そこにあるだけで元気が出るわ。

お兄ちゃん
弱気になったらあきまへん。

フフ…。

萬治郎。
ん?

お前 昔 奉公に行く直前

きれいな色の夢を見たと
言うてたこと あったなぁ…。

へえ。 お兄ちゃんが それは
琥珀の色やと教えてくれた。

わても こないだ 見た。

お天道さんが
海の向こうから上がってきて

わてら兄弟の体を
きらきら光らして

温かなってきてなぁ…。

萬治郎。

お前は弟やけど

いつも わての…。

わての 自慢やったで。

<翌日 兄 千恵蔵は
眠るように世を去った。

萬治郎は大阪中から
花を買い集め

豪勢な供え花にした。

兄は 花のような
きれいで見事な人であった>

見事な出来や。

これやったら 本場
スコットランドウイスキーと遜色あらへん!

琥珀色も これまでの雷神より
数段上やし…。

上やし なんや。

寿太郎。

最後まで言え。

色もええし なんや!

新しい瓶は
とびっきりの透明にして

切り子を施したら
どないだっしゃろ。

切り子やと!

すんまへん… たこつきますわな。

それ… それに このご時世に
贅沢したら にらまれます。

ほんま すんまへん。
それで行こ!
えっ!?

ほな わては東京に
職人探しに行ってくるさかい。

お父ちゃん!

わてに 行かしとくなはれ。

よっしゃ。

とびっきりの瓶
責任持って作ってこい!

へえ! おおきに!

(鳥のさえずり)

(ため息)

夜なべもこたえる歳になったか。

しっかりせえ 萬治郎。

 

ああ わてや。

何や? どないした? 落ち…。

寿太郎が!?

<長男 寿太郎が
東京で急性心筋梗塞を起こし

病院に運ばれたとの
妻 サトからの一報であった>

アホ! 泣くな…。

いちばんつらいんは 大将や。

(泣き声)

泣くな!

なんでや!
あんなええ若旦さんが…。

クソッ…。

(泣き声)

(中井)大将 東京から 今 小包が。

東京?
(中井)ええ。

寿太郎:新しい瓶は
とびっきりの透明にして

切り子を施したら
どないだっしゃろ

ええ出来や。

寿太郎。 寿太郎!

ようやった!

この瓶に この瓶に…。

とびっきりの雷神 詰めるで。

皆 そろたな。
(一同)へえ!

さあ 撮っとくれやす。

<萬治郎は このウイスキー
寿太郎の名前から1文字を取り

雷神ウイスキー・寿と命名

これが 飛ぶように売れた。

しかし この頃
日本軍は アメリカの真珠湾を攻撃し

太平洋戦争へ突入。

物資は 配給制となり
ウイスキー ブドウ酒 その他の商品は

軍が必要とするもの以外
製造すら できなくなった。

戦況は 悪化し
日本各地をB29が空爆

暁屋も焼失し
やむなく 営業所に拠点を移した>

(読経)

天道やないか!

本店の蔵の焼け跡から
出てきたの。

はぁ~。

商売が
でけんようになってしもた。

大阪も また いつ焼かれるか
わからへん。

サト 高松に疎開し。

お前にまで死なれたら わては…。

あなたも一緒に疎開するなら
喜んで。

わては 暁屋を守らな あかん。
ならば 私も ここにいます。

やっぱり うまいなぁ。

生きる喜びや。

はぁ~。 あかん あかん。

弱気の虫に食べられかけてた。

戦争に勝つまでの辛抱や。

皇国日本が 鬼畜米英に
負けるわけあらへん。

サト こっち来ぃ。

ほんまやで。

いつまでも どこまでも

わての側に いててくれな。

お母さんたちが
見てらっしゃるわよ。

あっ…。

今日は もう
お経は おしまいだす。

(りんの音)

私は ずっと あなたの側にいます。

萬治郎さん。

< しかし このとき すでに

病魔は
妻 サトの体をむしばんでいた。

最愛の人は
まもなく 静かに旅立っていった>

(空襲警報)

おい。
へえ。

(空襲警報)

(中井)大将。
サトに天道ポートワイン 手向けたる。

店には おまへん。
工場やったら ある。

海軍はんが
自分ら用に残したある天道が。

あきまへん!
空襲警報が鳴ってます。

勝手に鳴りさらせ!

あきまへんって!
大将 落ち着いてください!

邪魔すんな!

あきまへんって!
大将!

大将。

大将!

あきまへんって。

暁屋の工場に

何してくれてんのや!

サト サト!

天道は 焼かさへんぞ!

おのれ…。

大将!

大将! あかん。 あきまへん!
防空壕へ!

あきまへん!
燃料に燃え移ったら 爆発します。

アホんだら! 移る前に消さんかい!

火 消せ ドアホ!

大将! 大将がいてるど!

商いが できんようになっても
ええんか!

大将がいてる。 大将や。

火を消せ~!

火 消すぞ。

(中井)そや みんなで消すんや。

工場が燃えたら
わてらの商いも燃えてまうで!

消せ~!

消せ~! ほら 消さんかい!

消せ 消せ! 火を消せ!

大将!

朕深く 世界の大勢と

帝国の現状とに鑑み

非常の措置をもって
時局を収拾せんと…。

あの~ 何て言うてはるんだすか?

降参するって おっしゃったんや。

日本は 戦争に負けた。

(泣き声)

番頭さん。

(泣き声)

番頭さん。
へえ。

これから
何が起こるか わからへん。

蒸留所の雷神の原酒の樽
守るんや。

誰にも
指一本 触れさしたら あかんで。

へっ へえ。

残りのうちの半分は
焼け残った工場の再建や。

工場がないと
天道は 造られへんさかいな。

へえ。

あとのもんは
わてと この店をたて直す。

誰ぞ 看板屋さんを呼んどいで。

ほら はよ動かんかい!

戦争は しまいや!

そや 戦争は しまいや!

商い やれるんや!

大将。

売る酒は でけても

買えるような日本人
おらんのと ちゃいますやろか?

売る相手は もう決めたある。

アメリカはんや。

戦争に勝って
ぎょうさん お金が入る。

それに 先方も 戦争で
しんどかったこっちゃろう。

わては 日本人にも

アメリカ人にも イギリス人にも

みんなに感じさしたいんや。

生きてる喜びを。 驚かしたいんや。

戦争に負けた この国に
この日本に

こないに おいしい国産のウイスキー
あんのかと。

さあ 商い 始めるで!

(一同)へえ!
ほな 行くで。

お前 また忙しくなるで。

<戦後 萬治郎は
雷神ウイスキーの販売を開始。

進駐軍は もとより
日本人にも大ヒットを飛ばした>

おまはんは
お兄ちゃんみたいな優しい味や。

おまはんは
寿太郎みたいな繊細な香りや。

こらぁ お父ちゃんや。
優しい深みがある。

こら お母ちゃんや。
ちょっと うるさい。

こら マキどんか
懐かしいなぁ。

うん… あんさんは

旦さんみたいに どっしりしてて
迷いがない。

おまはんは ミドリはんや。

一本気でたくましい。

うん こら 松亀はんや。

澄ました顔やけど
そこはかとのう 陽気な味や。

おまはんは サトや。
きりっと強い ええ おなごや。

<鳴江萬治郎は
83歳で この世を去った。

彼が追い続けた琥珀の夢は

今も 世界中の人々を
魅了し続けている>

<ハマちゃん スーさんが
お茶の間にやってきた。

釣りに仕事に… 時には恋に?>